― 立ち止まることが、次の一歩をつくる

「いろいろ経験してきたはずなのですが、自分に何ができるのか、よく分からないんです。」
人と向き合う中で、こんな言葉を耳にすることがあります。
これまで仕事を続け、いくつもの役割を担い、難しい場面にも向き合ってきた。
それでも、
「自分には特別なものがない。」
と話される方は、少なくありません。
でも、お話を一つひとつ伺っていくと、
その方なりに考え、工夫し、人と関わり、
乗り越えてきた経験がたくさん見えてきます。
経験がないのでなく。
経験してきたことの中にある、自分の力にまだ気づいていない。
そんなことがあるのだと思います。
たとえば、
初めて任された仕事が、思うように進まなかった。
周囲に聞きながらやり方を変え、
何とか最後までやり遂げた。
その時は、
「大変だった。」
という記憶だけが残っているかもしれません。
でも、少し立ち止まって振り返ってみると、
分からないことを人に聞いた。
うまくいかない理由を考えた。
やり方を変えてみた。
途中で投げ出さず、最後まで続けた。
そこには、
その人が仕事を進めるうえで大切にしてきたことや、
その人なりの工夫が見えてきます。
私は、人と向き合う時間の中で、
「その時、どうしたのですか。」
「何を考えて、その行動を選んだのですか。」
「そこから何を感じましたか。」
と伺うことがあります。
すると、
「そう言われてみると……。」
と少し考えながら、その時のことを振り返ってくださいます。
そして、
「あの時も同じようなことをしていました。」
「自分は、人に相談しながら進めることを大切にしているのかもしれません。」
そんな言葉が出てくることがあります。
経験そのものは変わっていません。
振り返ることで、経験の見え方が変わっていく。
そこに大切な意味があるように感じています。
振り返るというと、
「何ができなかったのか。」
「どこが悪かったのか。」
と、反省することを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それも必要なことです。
でも、振り返ることは、
できなかったことを探すだけではありません。
自分は何を考えたのか。
どんな工夫をしたのか。
誰と関わったのか。
そこから何を学んだのか。
そんなふうに経験を見つめ直してみると、
それまで気づかなかった自分の姿が見えてくることがあります。
前回
「遠回りに見える経験にも、意味がある」
ということについてお伝えしました。
その時には意味が分からなかった経験も、
後になって別の仕事や人との関わりの中で生きてくることがあります。
経験は、積み重ねるだけでは見えてこないものもあります。
ときどき立ち止まり、
「あの経験から、自分は何を得たのだろう。」
と振り返ってみる。
そこで初めて、
点だった経験と経験が、少しずつつながっていくことがあります。
私自身も、これまでを振り返ると、
その時には意味が分からなかった経験がいくつもあります。
研究に携わったこと。
技術の仕事に向き合ったこと。
人を育てる立場になったこと。
そして、人のキャリアや成長に関わるようになったこと。
当時は、それぞれ目の前のことに取り組んでいました。
それらが今につながるとは、考えていなかったように思います。
でも今振り返ると、
一つひとつの経験から得たものが、
今の仕事の中でつながっていることに気づきます。
その時には見えなかったものが、
時間が経って初めて見えてくる。
キャリアには、そんなことがあるのだと思います。
私たちは日々、
次の仕事、
次の予定、
次の目標へと向かっています。
前へ進むことに一生懸命になるほど、
自分が歩いてきた道を見る時間は少なくなります。
だからこそ、ときには立ち止まってみる。
「何ができたか」だけではなく、
「自分は、どんなふうにここまで歩いてきたのだろう。」
と振り返ってみる。
そこには、
これからを歩くためのヒントが、
思っている以上に残されているかもしれません。
経験は、
ただ過ぎていく出来事ではありません。
振り返り、
そこにあった自分の行動や思いに気づき、
言葉にしてみる。
その時、
「経験したこと」が、
少しずつ「自分の力」に変わっていくのだと思います。
そして、
過去を振り返ることは、過去に戻ることではありません。
これからの一歩を見つけるために、
自分が歩いてきた道を見つめてみること。
そこには、自分では当たり前だと思っていたことや、
これまで培ってきた力が見えてくることがあります。
では、その力をこれからどう活かしていけばよいのでしょうか。
次回は、
「できること」より、「活かせること」に目を向ける
― 経験の中にある、自分なりの力
について、
少し立ち止まって考えてみたいと思います。