― キャリアは一直線ではない

「あの経験は、何だったんだろう。」その時はそう思っていたことが、
何年か経って振り返ると、「あの経験があったから、今がある。」
と思えることがあります。
不思議なものです。
私たちはキャリアを考えるとき、つい、一本の線を描こうとします。
学校を卒業して、
仕事を選び、
経験を積み、
少しずつステップアップしていく。
そんなふうに進めたら、分かりやすいのかもしれません。
でも実際には、思ったようにいかないこともあります。
やってみたけれど、何か違った。
思いがけず別の仕事を任された。
環境が変わり、これまでとは違う役割になった。
「自分はどこへ向かっているのだろう。」
そんな気持ちになることもあります。
その中で、ある方がこんなことを話してくださいました。
希望していた仕事とは違う役割を任され、
当時は、「なぜ自分が、この仕事をするのだろう。」
と思っていたそうです。
それでも目の前の仕事に向き合っているうちに、
人との関わり方を覚え、
これまで知らなかった仕事を知り、
自分にも意外な得意分野があることに気づいた。
そして数年後、
新しい仕事に挑戦することになったとき、
その経験が思いがけないところで役に立ったそうです。
「あの時は遠回りだと思っていました。でも、無駄ではなかったんですね。」
そんな言葉が印象に残りました。
キャリアには、その時には意味が分からない経験があります。
すぐに結果につながらないこともあります。
経験の意味は、その瞬間に決まるとは限りません。
後になって、人との出会いにつながったり、新しい仕事につながったり、
「あの経験があったから分かる。」と思える日が来ることがあります。
私自身のキャリアを振り返っても、一直線ではありませんでした。
研究に携わった時期があり、
技術の仕事を経験し、
人や組織と向き合う立場になり、
そして今は、
人のキャリアや成長に関わる仕事をしています。
当時は、それぞれが今につながるとは考えていませんでした。
一見すると、ばらばらに見える経験です。
でも今振り返ると、研究で身につけた「よく見ること」。
技術の仕事で学んだ「原因を考えること」。
人を育てる立場で経験した「相手によって関わり方を変えること」。
どれも、今の仕事の中に生きています。
前回、
「小さな一歩が、未来を変えていく」というお話をしました。
一歩踏み出してみたからといって、必ず思い描いた方向へ進むとは限りません。途中で、「違ったかな。」と思うこともあるでしょう。
そんなときは、無理に元の道へ戻らなくてもいい。
少し方向を変えてみる。
別の方法を試してみる。
そこで出会ったものに、ちょっと興味を持ってみる。
そうやって歩いているうちに、思いもしなかった道につながることがあります。
キャリアは、最初に引いた一本の線の上を、
間違えずに歩いていくものではないのだと思います。
曲がったり、
立ち止まったり、
時には戻ったり。
その時々の経験が、あとから少しずつつながっていく。
振り返ったときに初めて、
「これも、自分の道だったんだな。」
と思えるのかもしれません。
遠回りに見える経験も、まだ意味が見えていないだけかもしれません。
今いる場所だけを見て、「間違えた」と決めなくてもいい。
今日の経験が、いつか思いもしなかったところで、
未来の自分を支えてくれることがあります。
キャリアは一直線ではない。
だからこそ、どんな道を通ってきたかも、その人らしさになっていくのだと思います。
次回
遠回りも、予定外の出来事も、振り返れば自分のキャリアの一部になっていきます。
その経験を、ただ「経験したこと」で終わらせず、
次の一歩につなげるためには何が必要なのでしょうか。
「経験は、振り返って初めて自分の力になる」
― 立ち止まることが、次の一歩をつくる
について、
少し立ち止まって見ていきたいと思います。